大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ワ)10986号 判決

東京都千代田区神田司町二丁目一〇番地

原告

株式会社第一製作所

右代表者代表取締役

谷澤博

右訴訟代理人弁護士

秋吉稔弘

同輔佐人弁理士

瀧野秀雄

大阪市東成区東今里三丁目二二番三七-五一一

被告

豊菱商事株式会社

右代表者代表取締役

下河忠

主文

一  被告は、その販売する自動車用、オートバイ用コンタクトポイント、その包装箱及び内袋に別紙目録(二)記載の標章を付し、又は右標章を付した自動車用、オートバイ用コンタクトポイント、その包装箱及び内袋を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。

二  被告は、被告肩書住所地において所有する別紙目録(二)記載の標章を付した第一項記載のコンタクトポイント、包装箱及び内袋を廃棄せよ。

三  被告は、別紙目録(五)に表示した色、配色、構図及び文字を施した包装箱を使用して、自動車用、オートバイ用コンタクトポイントを販売、拡布若しくは輸出してはならない。

四  被告は、原告に対し、金七五二万四〇〇〇円及びこれに対する平成四年七月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告に対し、日本経済新聞社発行の日本経済新聞(全国版)紙上に別紙目録(六)記載の文面、体裁による謝罪広告を一回掲載せよ。

六  原告のその余の請求を棄却する。

七  訴訟費用はこれを五分し、その四を被告の、その余を原告の負担とする。

八  この判決は、第一項ないし第四項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  請求の趣旨

一  被告は、その販売する自動車用、オートバイ用コンタクトポイント、その包装箱及び内袋に別紙目録(二)記載の標章を付し、又は右標章を付した自動車用、オートバイ用コンタクトポイント、その包装箱及び内袋を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示してはならず、右コンタクトポイントに関する宣伝広告物、包装紙、包装箱、内袋、業務用通信用封筒又は便箋に前記標章を付して展示又は頒布してはならない。

二  被告は、原告に対し、被告肩書住所地において所有する別紙目録(二)記載の標章を付した第一項記載のコンタクトポイント、宣伝広告物、包装紙、包装箱、内袋、業務用通信用封筒及び便箋を廃棄せよ。

三  被告は、別紙目録(五)に表示した色、配色、構図及び文字を施した包装箱を使用して、自動車用、オートバイ用コンタクトポイントを販売、拡布もしくは輸出してはならない。

四  被告は、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告に対し、日本経済新聞社発行の日本経済新聞(全国版)紙上に別紙目録(六)記載の文面、体裁による謝罪広告を一回掲載せよ。

六  訴訟費用は被告の負担とする。

七  第五項を除き仮執行宣言。

第二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求をいずれも棄却する。

第三  請求原因

(商標権に基づく請求)

一  原告は、左記の商標権(以下、「本件商標権」といい、その対象たる登録商標を「本件商標」という。)を現に有するものである。

1 出願日 昭和三二年一月三一日

2 公告日 昭和三二年四月二七日

3 登録日 昭和三二年一〇月二九日

4 登録番号 第五〇九四三七号

5 指定商品 第二〇類 点火栓及びその他本類に属する商品

6 登録商標 別紙目録(一)のとおり

7 存続期間の更新登録日

昭和五三年二月九日

昭和六三年一月二二日

二1  被告は、昭和五四年一二月一〇日設立登記をしたものであるが、昭和五六年七月三一日に本店を現在地に移転登記したのち、自動車電機部品の販売を業としている。

2  被告は、昭和五六年七月頃から、自動車用、オートバイ用コンタクトポイント及びその包装箱、内袋、包装紙に別紙目録(二)記載の標章(被告標章)を付し、これを付したコンタクトポイント(被告商品)及びその包装箱及び内袋を他へ譲渡し又は引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、右被告標章を付した包装紙、宣伝広告物、業務用通信用封筒又は便箋を展示し、頒布している。

三  被告標章は、称呼、外観又は観念において本件商標に類似し、被告標章が使用されている商品であるコンタクトポイントは、本件商標権の指定商品である「点火栓及びその他本類に属する商品」に含まれる。

四  よって、被告の前記各行為は、原告の本件商標権を侵害するものであるから、原告は被告に対し、本件商標権に基づいて、被告標章の使用差止め及び侵害行為を組成したものの廃棄を求める。

五1  被告は、昭和五六年七月頃から、被告標章を付した包装箱に入れた被告商品を販売しているが、国内のみならず、原告が販売する原告の商品であるコンタクトポイント(原告商品)の海外における市場のうち特に有力市場である中近東地区のドバイ、イラン、サウジアラビアにおいて、被告の販売した被告商品であるコンタクトポイントを原告商品と誤認するものが出てきた。しかも、被告商品が原告商品に比べ粗悪であるため、被告商品についての苦情が原告のもとにくるなどして、原告の信用が著しく毀損されている。

2  よって、原告の信用回復のための措置として、日本経済新聞社発行の日本経済新聞(全国版)紙上に、別紙目録(六)記載の文面、体裁による謝罪広告を一回掲載することを求める。

六1  被告は、被告標章を付したコンタクトポイント(被告商品)を、平成元年七月頃から平成四年六月二〇日までの約三か年間に、一か年平均三〇万個を販売した。

被告会社のコンタクトポイントの仕入価格は、一個八〇円ないし九〇円であり、その包装(内袋及び包装箱)に要する費用は一個について五円、販売価格は輸出における現地着払いの金額が一二二円であり、諸経費は販売価格の五%が相当であるから、右三か年間の総販売代金は一億〇九八〇万円で、右の経費を差し引いた純利益は二三〇四万円と算出される。

2  よって、原告は、被告に対し、右の原告の損害と推定される金二三〇四万円のうち金二〇〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(不正競争防止法による請求)

七 原告の商品表示

1  原告は、昭和三〇年の設立当初から、自動車、オートバイなどに用いるコンタクトポイントを製造し、これを別紙目録(三)に表示した大箱、別紙目録(四)に表示した包装箱に入れて日本全国に販売し、大阪に五社、東京に一社の販売店(一次問屋)を通じて、全国に販売し、国産車の全車種及び一部の外国産車にも原告商品は用いられて、月産約四〇万個となっている。なお、国産車の輸出が盛んになるにつれて、昭和四五年以降は、海外へのコンタクトポイントの輸出も増加して来た。

原告は、昭和三〇年の販売開始以来、別紙目録(三)の大箱、別紙目録(四)の包装箱を使用している。

2(一)  別紙目録(三)の大箱は、包装箱を一〇個収容する大きさであって、箱の蓋部及び前後部の縦横比は略一対三・五で、箱の左右側面部の縦横比は一対一で構成される長方形の形状を有する。

(二)  大箱の蓋部及び前後部は、いずれも、その上方部分略三分の二の面積を赤色系の色調とし、下方部分である略三分の一の面積を黒色とし、右の赤色系と黒色との間に黄色の帯線を細いけれども明瞭にかつ直線で施し、この帯線の左端近くに黄色で逆二等辺三角形を描き、右帯線の右端近くには原告名の「第一」を印象づける数字の「1」を黒色で中心に配した黄色の円を描き、本件商標登録がなされた昭和三二年一〇月二九日以降は前記三角形の上方に白色をもって三つ葉状の図形の本件商標を配し、前記赤色系部分に白色で本件コンタクトポイントの商品名を、黒色部分には白色で原告名を英文字をもって「DAIICHI MFG CO.,LTD.」と表示しているものである。

(三)大箱の左右側面部も、いずれも同じくその上方部分略三分の二の面積を赤色系の色調とし、下方部分である略三分の一の面積を黒色とし、右赤色系と黒色との間に黄色の帯線を、細いけれども明瞭にかつ直線で施し、前記赤色系部分に白色で本件コンタクトポイントの商品名を、黒色部分には白色で原告名を英文字をもって「DAIICHI MFG CO.,LTD.」と表示しているものである。

3(一)  次に、原告の包装箱は、コンタクトポイントを一個収容する大きさで、箱の蓋部の縦横比は、略一対一・四、箱の前後部の縦横比は略一対二・三、箱の左右側面部の縦横比は一対一・五で構成される長方形の形状を有する。

(二)  包装箱の蓋部は、その上方部分略四分の三の面積を赤色系の色調とし、下方部分である略四分の一の面積を黒色とし、右の赤色系と黒色との間に黄色の帯線を細いけれども明瞭にかつ直線で施し、この帯線の下側で前記黒色部分の右端近くに、原告名の「第一」を印象づける数字の「1」を黒色で中心に配した黄色の円を描き、本件商標登録がなされた昭和三二年一〇月二九日以降は前記赤色系部分の中央上部に白色をもって三つ葉状の図形の本件商標を表示し、前記赤色系部分に黒色と白色で本件コンタクトポイントの商品名を、黒色部分には白色で原告名を英文字をもって「DAIICHI MFG CO.,LTD.」と表示しているものである。

4  このように大箱及び包装箱の特定の複数の色彩の配色、構図等は、昭和三〇年当時コンタクトポイントを収容する箱にはみられなかった新奇なものであって、原告は、右の大箱及び包装箱を同年以来継続して使用してきたものであり、右大箱及び包装箱は、遅くとも昭和四〇年には、原告製造にかかるコンタクトポイントであることを識別する表示として広く認識され今日に至っている。

八 被告は、別紙目録(五)に示す包装箱(被告包装箱)を使用して、コンタクトポイントを販売している。すなわち、

1  被告包装箱は、コンタクトポイントを一個収容する大きさで、箱の上部、底部、前後部の縦横比は、略一対一で構成された長方形の形状を有する。

2  包装箱の上部及び底部は、いずれもその上方部分略三分の二の面積を赤色系の色調とし、下方部分略三分の一の面積を黒色とし、右の赤色系と黒色との間に黄色の帯線を細いけれども明瞭にかつ直線で施し、この帯線の左端近くに黄色で逆二等辺三角形を描き、右帯線の右端近くに数字の「1」を黒色で中心に配した黄色の円を描き、この黄色の円の上方で、かつ前記赤色系部分に白色で三つ葉状の図形商標を、また前記帯線の上方でかつ前記赤色系部分に白色で商品名を表示し、前記黒色部分には白色で、被告の社名と異なり、存在しない会社名であるが原告の社名を推測させる社名である「NIPPONDAIICHI MFG CO.,LTD.」と表示している。

九 以上のとおり、被告は、原告の大箱、包装箱と同一もしくは類似する色、配色構図をもって表示した被告包装箱を使用し、これに原告商品ではないコンタクトポイントを収容して販売、拡布し、輸出しているが、右は原告商品と混同を生じさせる行為であり、原告はこれにより営業上の利益を害されるおそれがある。

一〇 よって、原告は不正競争防止法一条一項一号に基づき、被告包装箱を使用してコンタクトポイントを販売、拡布、輸出する行為の差止めを求める。

第四  請求原因に対する認否及び被告の主張

一  請求原因一の1ないし6は認める。

二  請求原因二1は認める。同2のうち、被告がコンタクトポイントの包装箱に被告標章を付し、これに被告標章のないコンタクトポイントを入れて他へ譲渡し、引き渡したこと、右包装箱を展示したことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告は、被告標章を付した包装箱に、被告標章のないコンタクトポイントを入れて、イラン在住のイラン人及びシンガポール在住のシンガポール人に譲渡し、これを売渡し先の関係人に送付したにすぎないものである。

三  請求原因三中、被告標章が外観において、本件商標に類似すること、被告の販売するコンタクトポイントは本件商標の指定商品に含まれることは認める。

四  請求原因四は争う。

五  請求原因五1のうち、被告が、被告標章を付した包装箱に入れた被告商品を販売していることは認めるが、販売開始時期が昭和五六年七月頃からかどうか、原告が中近東地区において原告商品を販売しているかどうか、被告商品についての苦情が原告のもとに来ているかどうかは知らない。その余は否認する。

同2は、争う。

六  請求原因六1は否認する。被告のコンタクトポイントの販売総額は二〇〇〇万円に達しない。また、被告の本件コンタクトポイントの販売による利益は八パーセント程度である。

同2は争う。

第五  証拠関係

証拠の関係は、記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因一の1ないし6は、当事者間に争いがなく、同7は、被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

二1  請求原因二1及び請求原因二2中、被告がコンタクトポイントの包装箱に被告標章を付し、これにコンタクトポイントを入れて他へ譲渡し、引き渡したこと、右包装箱を展示したことは争いがない。

原本の存在及び成立について争いのない甲第三号証の一ないし三、甲第六号証ないし甲第一一号証、被告商品の外箱(包装箱)であることに当事者間に争いのない検甲第二号証ないし検甲第五号証の各一、被告商品の内袋であることに当事者間に争いのない検甲第二号証ないし検甲第五号証の各二、証人谷澤国昭の証言により真正に成立したものと認められる甲第一二号証、甲第一五号証ないし甲第一七号証、証人谷澤国昭の証言により被告が販売したコンタクトポイントと認められる検甲第二号証ないし検甲第五号証の各三、証人谷澤国昭の証言並びに弁論の全趣旨に、前記争いのない事実を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被告は、他から購入した自動車用、オートバイ用コンタクトポイントをビニール袋の内袋に入れ、これを紙製包装箱に入れたものを、我が国において注文を受け、ドバイ、イラン等中近東諸国の業者に譲渡し、FOB条件又はC&F条件で引き渡している。

(二)  被告が譲渡、引き渡したコンタクトポイントの右のような内袋及び紙製包装箱には被告標章が印刷されて、付されていた。

また、被告が譲渡、引き渡したコンタクトポイントには被告標章が刻印されて、付されているものもあった。

2  被告は、被告標章の付されたコンタクトポイントを譲渡、引き渡したことを否認するが、前記検甲第二号証の三及び証人谷澤国昭の証言によれば、原告がドバイの業者から入手した被告が譲渡、引き渡したコンタクトポイントには被告標章が刻印されているものがあり、被告が譲渡、引き渡した後にコンタクトポイントに一個ずつ被告標章を刻印することは技術的には可能であるが、通常はコンタクトポイントの製造工程で、プレス作業時に同時に刻印しているものであることが認められ、包装箱から取り出して、内袋を開いてコンタクトポイントに刻印し、再度包装箱に入れる手数を考えると、被告が譲渡、引き渡した後に被告標章を刻印することは経済的に現実性は乏しく、被告標章が付されたコンタクトポイントは、被告が譲渡、引き渡した段階で被告標章が付されていたものと推認することができる。

3  被告が、被告商品の包装紙に被告標章を付していること、被告が、被告標章を付した包装紙、包装箱、内袋を展示し、被告標章を付した宣伝広告物、業務用通信用封筒又は便箋を展示し、頒布していることを認めるに足りる証拠はないが、前記1の証拠によれば被告は現に譲渡し、引き渡している被告標章を付した被告商品、その包装箱、内袋を譲渡若しくは引渡しのために展示するおそれがあるものと認められる。

三  請求原因三中、被告標章が外観において本件商標に類似していることは当事者間に争いがなく、このことと原告商標と被告標章を対比した結果とによれば被告標章が原告商標に類似するものであることは明らかである。また、被告標章が付されているコンタクトポイントが、本件商標権の指定商品に含まれることは、当事者間に争いがない。

四  以上によれば、被告による被告商品の譲渡、引渡しは、我が国内において原告の本件商標権を侵害するものであるから、右商標権に基づいて、被告商品、その包装箱及び内袋に被告標章を付すること、被告標章を付した被告商品、包装箱、内袋を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示すること並びに侵害行為を組成したものである被告標章を付した被告商品、包装箱、内袋の廃棄を求める原告の請求は理由があるが、これを越える差止請求及び廃棄請求は理由がない。

五  請求原因五中、被告が被告標章を付した包装箱に入れた被告商品を販売していることは当事者間に争いがなく、前記甲第三号証の一ないし三、甲第六号証ないし甲第一二号証、証人谷澤国昭の証言により真正に成立したものと認められる甲第一三号証及び証人谷澤国昭の証言によれば、原告が、ドバイ、イラン等の中近東地区を含む世界各地に原告商品を販売してきたこと、被告が遅くとも平成元年から被告標章を付しあるいは付してない被告商品を、前記二認定のような被告標章を付した包装箱及び内袋に入れて、ドバイ、イラン等中近東地区の業者に譲渡、引き渡すようになったため、被告商品を原告の商品と誤認する者があり、原告商品と比べて品質、性能の劣る被告商品についての苦情が原告に寄せられたこともあったことが認められる。

よって、被告の過失によるものと推定される我が国内における本件商標権侵害により、原告の中近東地区における業務上の信用が毀損され、ひいては我が国内における信用も毀損されていることが認められるから、信用回復のための措置として、原告の請求のとおりの謝罪広告を命ずるのが相当と認められるから、原告の本件謝罪広告請求は理由がある。

六  請求原因六について判断する。

1  当裁判所は平成四年一二月三日、原告の申立(平成四年(モ)第九〇五五号)により、被告に対し、被告の本件商標権侵害の行為による損害の計算をするために必要な書類として、被告が所持する、平成元年七月一日から平成四年六月二〇日までの間の被告のコンタクトポイントに関する取引関係が記載されている〈1〉売上帳、〈2〉仕入台帳、〈3〉輸出申告書(E/D)-税関発行のもの、〈4〉インボイス控、〈5〉パッキングリストを、平成五年一月一八日までに当裁判所に提出すべき旨を命ずる決定をし、右決定は平成四年一二月二四日被告に送達され、平成五年一月四日の経過により確定したが、被告は右提出期限経過後の弁論終結時までに前記書類を提出しない。

右文書提出命令申立書においては、文書の趣旨として、被告会社の作成にかかる帳簿及び資料であって、前記の期間における被告コンタクトポイントの取引について、原告主張の販売数量、単価、利益に関する記載がある文書である旨、証すべき事実として、本件訴状及び平成四年一〇月一四日付原告第二回準備書面記載のとおり、被告がコンタクトポイントを三年間で九〇万個、一個一二二円で販売し、純利益二三〇四万円を得たものであり、原告が同額の損害を受けたものである旨の記載がされていた。

2  前記甲第一二号証、証人谷澤国昭の証言により真正に成立したものと認められる甲第一四号証、甲第一八号証、甲第一九号証及び証人谷澤国昭の証言に、右1のような文書提出命令に対する被告の態度を考え合わせれば、平成元年頃から原告の中近東地区、東南アジア地区への原告商品の売上げが、同地区における二輪車の台数が増加しているのに、従来より二割ないし三割減少しており、被告が活発な営業活動を行っているドバイ、イラン地域への売上げは、一か月四万個ないし五万個、即ち、年間四八万個ないし六〇万個となっており、内輪に見て、二割減後の年間売上四八万個と、これから計算した従来の年間販売数量六〇万個の差である年間一二万個、したがって平成元年七月から平成元年六月までの三年間では三六万個が、被告のドバイ、イラン地域への被告商品の販売個数であり、そのC&F販売価格は一個一二二円、その仕入価格は一個九〇円、包装代は一個につき五円、通関費、乙仲費、通信費、銀行経費等の諸経費は売上げの五パーセントとするのが相当であるから、被告が前記三六万個の販売によって得た純利益は次の式のとおり、

122-(90+5+122×0.05)×360000=7524000

七五二万四〇〇〇円と認められる。

3  原告は、前記三年間の被告商品の販売数量は九〇万個であり、これによる純利益は二三〇四万円である旨主張し、前記甲第一二号証、甲第一四号証、甲第一九号証及び証人谷澤国昭の証言中には右主張にそう部分があるが、右部分を直ちには信用できず、前記1のような被告の態度を考慮しても、原告の主張の損害を認めるのは相当でない。

被告は、被告商品の販売総額は二〇〇〇万円に達せず、その販売利益率は八パーセント程度である旨主張するが、右主張にそう証拠はない。

4  以上のとおりであるから、商標法三八条一項により被告が、本件商標権を侵害する行為によって得た利益である七五二万四〇〇〇円を原告の受けた損害の額と推定する。

5  よって、原告の損害賠償請求は、右七五二万四〇〇〇円及びこれに対する本件商標権侵害の日以後で、記録上明らかな本件訴状が送達された日の翌日である平成四年七月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

七  請求原因七ないし九は、被告が明らかに争わないから自白したものとみなす。

右事実によれば、不正競争防止法一条一項一号に基づき、被告包装箱を使用してコンタクトポイントを販売、拡布、輸出することの差止めを求める請求は理由がある。

八  以上によれば、原告の本訴請求は、主文掲記の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言について、同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 宍戸充 裁判官 櫻林正己)

目録(一)(本件商標)

〈省略〉

目録(二)(被告標章)

〈省略〉

目録(三)

〈省略〉

〈省略〉

目録(四)

〈省略〉

目録(五)

〈省略〉

目録(六)

一、文面

謝罪広告

当社は、貴社が商標権者である、商標〈省略〉(登録第五〇九四三七号)に類似の標章を附したコンタクトポイントを販売し、及びこのコンタクトポイントの包装、取引書類に右標章を附して頒布してきましたが、当社の右行為は、貴社の有する右商標権を侵害するのみならず、貴社が製造販売する〈省略〉商標を附したコンタクトポイントと誤認混同を生じさせ、貴社の業務上の信用を害する結果となりました。貴社に多大の御迷惑をおかけしたことを、当社はここに謹しんでお詫び申し上げます。

平成 年 月 日

大阪市東成区東今里三丁目二二番三七-五一一

豊菱商事株式会社

社長 下河忠

株式会社 第一製作所 殿

二、体裁

(1) 広告の大きさ(スペース) タテ二段、ハバ一〇センチメートル

(2) 使用活字

表題及び名義人・名宛人 十六級平一

本文及び日付・住所 十一級平一

なお、日付については掲載日を表示する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例